ハチカイ

七月中旬。
ちょうど夏休みが始まった時期で、何かと気の緩みやすい時期でもある。
そんな時期だからこそ、私は――
アリシア「ふぇいどぉ…」
…徐々に出たり消えたりするの？
アリシア「それは『フェード』でしょお…」
あ、ごめん…。
――とまあ、よくわからない異次元的な会話が繰り広げられてるわけなんだけれども。
そもそもお姉ちゃんが私の思考を読んでる時点でツッコむべきなんだろうけど、母さんもお姉ちゃんも詳しくは教えてくれなかったので私もみなまで聞かなかった。
自分では念話の応用みたいなものだと思ってるけど、ね。
アリシア「ま、そんな感じだからー…」
フェイト「うん。で、お姉ちゃん」
アリシア「なにー…？」
フェイト「宿題早くやらないと終わらないよ」
アリシア「あぁっ！？妹に厳しい現実を直視させられた！？」
フェイト「厳しい現実って…」
正しい現実だよ、お姉ちゃん…。
アリシア「だってさ、夏休み始まったばっかりだよ？宿題なんて八月の暮れに終わらせちゃえばいいじゃん！」
お姉ちゃんだめだよ！
それは最終日に全部やるハメになるフラグだよ！
フェイト「まあ、お姉ちゃん頭いいからいいけどさ…」
成績優秀なアリシア・テスタロッサには関係ないだろうけど、フェイト・テスタロッサは文系最悪だし…。
フェイト「あ」
ほら、早速判らない問題が…。
アリシア「……よっし！」
アリシア「ならばお姉ちゃんが文系最悪な妹を助けてあげよう！」
フェイト「うー、助けてお姉ちゃん…」
クロノ「……姉妹仲がいいのは結構なんだが」
……はい？
 
◇
 
クロノ「まったく、宿題をしてて出勤を忘れるなんて…」
クロノに溜め息付きで呆れられた…。
リイン「いいじゃないか。テスタロッサらしい」
かなで「つーか、フェイト悪くないしな。悪いのはアリシア」
アリシア「何を言っているのかな、かなでは」
かなで「お前はもっと姉としての責任を持て！」
むっとしたお姉ちゃんに、かなでがピシャリと言い放つ。
アリシア「かなでは妹がいないからそうやって…って、あ。ごめん、いた」
お姉ちゃんは言い返そうとしたけれど、そこで実は反論できないことに気付いて止めた。
呆れ顔のかなで。もちろん溜め息付きで。
かなで「人の妹を勝手に忘れ去るな…。かれこれ9年の付き合いなんだから」
アリシア「うん、そーだった。で、元気？あの子」
かなで「……あいつが元気に走り回ってるところを想像してみろ♪」
アリシア「……うん、無理だった♪」
……妙なテンションの二人。
長い付き合い故の変なノリというか。
リイン「そういえばかなでの妹は見たことがないな…。病弱なのか？」
かなで「全然。ただ変人なだけ」
はやて「ど、どーいうことですか…？」
はやてがちょっと後ずさる。「これ以上個性的な人が増えても…」と言わんばかりの表情だ。
アリシア「そこまで変人じゃないでしょ…。ちょっとアンニュイっぽいだけで」
ツヴァイ「『あんにゅい』ってなんです？」
リイン「物憂げな感じ」
ツヴァイ「いや、わかんないですぅ…」
リインフォースらしい説明不足さだ…。
クロノ「……あの、ちょっといいか？なんでアースラにかなでとアリシア姉さんまでいるんだ」
アリシア・かなで「それは私（/俺）がフェイトのユニゾンデｂ」
クロノ「嘘つけ」
うん、すごい嘘をついたよ今！お姉ちゃんもかなでも！
アリシア・かなで「ユニゾン・イｎ」
クロノ「帰れ！」
 
φ
 
アリシア「帰れと言われてしまった…」
隣でなにやらぶつぶつと呟いているアリシア。
そりゃあんだけやれば言われるだろうな…。つい俺も悪ノリしちゃったけど。
かなで「まあ、クロノもあれは勢いだろ。それに仕事の邪魔しちゃマズいしな」
後から律儀に謝ってくる姿が簡単に想像できる。
アリシア「仕事、ね…」
かなで「どうした？急に」
アリシア「別に。もうフェイトにもいろいろ抜かれちゃってるなー、って」
かなで「そりゃ、『アレ』からもしばらく経ってるしな…」
アリシア「5、6年後には身長とか胸囲とかも抜かれてそうで…！」←合ってる
かなで「そりゃまた細かい話だな」
でもまあ、そんなもんか…。
俺達が知らないうちにフェイトやなのは、はやて…ツヴァイだってどんどん成長していく。
なのはなんかそのうち教え子を持つんだろうし…。
フェイトはきっとAランクの事件だって解決してしまえる。
はやては部隊を持って、ツヴァイとリインを傍に置きながらもいろんなことに奔走しつつ、仲間の指揮をとる姿が簡単に想像できた。
かなで「でも、それはきっと悪いことじゃないだろ」
アリシア「そうだね。それはきっと…すごく、嬉しいことかも」
その頃にはお前もきっと成長してるよ、なんて恥ずかしくて言えなかったけど――
かなで「さて、宿題でも終わらせますか…」
アリシア「ああっ！フェイト二号！？」
かなで「わけがわからん」
まあ、きっと伝わってるだろ。
なんせ10年来の幼馴染なんだから、な。